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ヨンチャン

ヨンチャンヨンチャン
韓国出身。幼少期より漫画が好きで、京都精華大学のマンガ学部に留学という形で日本へ。2017年、週刊モーニングの新人賞(THE GATE)にて作品『ヤフ島』で大賞を獲り、漫画家デビューを果たす。講談社が運営している漫画アプリ(コミックDAYS)でスポ根×ラブコメボート漫画『ベストエイト』が掲載中。
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ベストエイト第一話(コミックDAYS)
ベストエイト第一巻(AMAZON Kindle版)

ヨンチャンさんの”マイストーリー”とは?

クリエイティブな仕事をしているクリエイターやアーティスト。現在の生き方に至るまでの原点やターニングポイントはどのようなものなのでしょうか。

ボートは人生そのもの

ボート漫画を描くことになったきっかけは、ボート連盟の関係者で、講談社の吉田さんという方から「ボート漫画を書いてみない?」とオファーをいただいたことです。

大学時代にアメフトをしていたのですが、実はボートのようなマイナースポーツにも興味があって。2020年にオリンピックが開催されるので、マイナースポーツを世の中に広めていきたいっていう気持ちも相俟って、オファー直後にボートを漕ぎに行ってみたんです。

水上スポーツの新鮮さや漕いだ感覚を元にネームを描いてみたら、それが通って結果ボートの漫画を書くことが決まりました。その後は何回も実際にボートを漕ぎに行って、実体験を漫画に反映したりしています。
「ボートは人生だな」としみじみ感じたのが一番の収穫でしたね(笑)

ボートマンガ「ベストエイト」巻頭ページ

ある種ネタバレにもなっちゃうんですけど、ボートって後ろ向きに進むスポーツなんですよ、進行方向が。漕ぐたび後ろ向きに進むんですけど、後ろが見えないため自分が今まで進んできた道しか見えないんです。

漕ぎ始めるとわかるんですが、本当に自分との戦いで……ギリギリまで自分を追い詰めてスピードを出して、良い記録を出すスポーツなんです。もちろん相手もいるんですけど、相手のことなんかほとんど見えないし、ゴールも見えない状況で。自分のボートに乗っている、舵を切る人だけを信じて漕ぐしか無いっていう。

その状況って不安も募るし、中長距離なので体力的にもしんどいっていう究極のスポーツなんです。先も見えなければ、あとどのくらいゴールまでの距離が残っているかもわからないっていう点で、人生とシンクロする点があって。ボートって、ゴールするその瞬間までゴールの景色がわからないんですよ。

人生も同じで、その人生がどんなものだったかは実際にゴールをしてみないとその瞬間までわからないじゃないですか。まさにそういった意味でボートは人生だなと思って。自分もまだ人生の途中なのでボートでいうパドルを漕ぎ続けようという心持ちでこの漫画を描いています。週刊連載と似ていて、どちらも休めないんですよ(笑)

一度スタートした途端、ゴールまで休めない。絶対連載を止めちゃダメだし、やり続けないといけない。だから、何十年も連載している漫画家は本当に尊敬します。

漫画を描くなら日本で、という野望

ファッションを学ぶならパリみたいな感じで、漫画を描くなら日本っていうのが僕の中でのデファクトスタンダードだったんですよ。やっぱり漫画というカルチャーを聖地である日本で学んで、世界に認めてもらえる漫画を作りたいと思い留学を決意しました。
京都精華大学を卒業してからは、集英社、講談社、小学館などありとあらゆる出版社に作品を持ち込んでました。20XX年にモーニングの新人賞に出した『ヤフ島』という作品で大賞を取り、念願の漫画家デビューを果たすことができました。
『ピアノの森』の一色まこと先生と『ジャイアントキリング』のツジトモ先生が審査員で受賞できたことも嬉しかったです!

尊敬している漫画家はたくさんいますが、特に浦沢直樹先生は、NHKの『漫勉』という番組で様々な漫画家の現場に密着取材しているのをTVで観て、漫画業界全体のことを考えているんだなと圧倒されました。『MONSTER』『20世紀少年』『MASTERキートン』いずれも画が上手いのはもちろん、演出が素晴らしいですね。

読む前と読んだ後で、子供から大人になったんじゃないかってくらい体中に衝撃が走った井上雄彦先生の『スラムダンク』や初めて買ったあだち充先生の『H2』などは少なからず影響を受けている作品です。

モーニングの新人賞「THE GATE」にて大賞をとった作品「ヤフ島」

描く際の難関ポイントは、日本語のニュアンス

日本で漫画を描くにあたって、言葉の壁にはつくづく悩まされてます。漫画ってセリフや言い回しがどれだけ読者に響くかが重要だと思うんですが、自分の伝えたいことが自分の語彙力でしか伝えることができないので……もちろん編集やアシスタントなど周りの協力があって出版に至っているんですが、僕自身まだ足りないところがあって日々勉強中です。難しいのが「口調」なんですよね、自分が教科書で学んだ日本語以外にも年配の方々が話す独特の言い方や、若い女性が使うような言葉などなかなか細かい言葉のニュアンスを表現することが大変な部分ですね。
漫画家って漫画さえ描いていればいいと思われがちですが、自営業と変わらないのでスタッフのスケジュール管理とか現場の管理とか、描くこと以外でやらないといけないことがたくさんあって。実際にスタートを切ってみないとわからない大変さかもしれないですね。

制作スケジュールとしては、最初に担当の人と打ち合わせがあります。最低でも2〜3時間くらいかけてストーリーを決めていって、それからネーム(セリフが入っていないさらっとした画で、自分にしかわからないメモみたいな感じのもの)を描きます。週刊連載なので、毎週20ページのネームを考えてなくてはいけません。それができたらセリフを入れて送ります。ここまで3日くらいかかるんですけどそこから編集に送って直しをもらいます。直しをもらう頻度等は漫画家によってそれぞれですが、最初のころは何十回と直したりしていましたね(笑)完成するまでに最大でも4日で完成させないと週刊連載がストップしてしまうので、絶対にここは落とせない作業なんです。その後3日間で作画をしていきます。

睡眠時間も2〜3時間しか取れなくて時間との戦いですね。それを週刊連載なので毎週毎週繰り返す。プレッシャーも大変ですし、ずっと時間との戦いなので本当に長年連載を続けている漫画家はすごいなと尊敬しています。

そういった苦労がある分、作品が出来上がった時の達成感は半端ないですね。
また、今回の『ベストエイト』には、いろいろな苦労や、乗り越えないといけない壁だった実体験を盛り込んだんですよ。4巻を読んでもらえるとわかるんですが、今まで一緒にやってきた仲間との別れや、新しい出会いがあってそこから皆で力を合わせて大会に挑んでいったりなど、自分が実体験で感じた苦労などをどういう気持ちで乗り越えていったかを作品には色濃く反映させました。

特に「人は一人では生きられない」という部分を強く描きました。僕も人生の途中でゴールが見えない中、どういう姿勢で人生に挑んでいくかというところを、「漫画の中でボートに乗る際に、皆で力を合わせ二人三脚で息を揃えていかないと速く漕げない」といった感じで自身の現場クルーと重ねて描きました。そんなメッセージが込められているということも心に留めながら読んでいただけると嬉しいです。

次の作品では、コラボレーションに挑戦したい

まだ未定ですが、他の漫画家と作品を作るかもしれないです。漫画家って孤独だなと思っていて、何時間もこもって作業をしてるだけで、例え売れても今住んでいる家がちょっと良くなるだけなんです(笑)社会との関わりもないスタイルがスタンダードな感じになっているから、もっと漫画家同士やそれ以外の分野の人ともコラボレーションをしていけたらなと思っています。
今後のビジョンとしては、作品を世に出していくとともに、将来的に漫画家やこの業界に関わってくれている人達のサポートができる環境を作っていきたいとも思っています。漫画家やその周りの人達って誰からも守られていないんですよ。例えば連載が打ち切りになっちゃったりすると、それまで現場でアシスタントをしてくれている人たちの仕事ってその瞬間からなくなってしまったりして急に露頭に迷ったりしちゃうんです。そういった人たちが泣く泣く他の仕事に行ってしまうのとかが歯がゆくて……だから、アシスタントを個人で抱えるのではなくプラットフォームのようなものをつくってアシスタントの仕事が安定するような環境を作ったり、手塚治虫先生がいたことなどでも知られるトキワ荘のような漫画家が集まれるような環境をつくって、そこで数多くの作品が生まれたりする場所を作っていきたいと思っています。

ヨンチャン『ベストエイト』単行本3巻11月14日発売!!
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